発足10年の気鋭の米農家集団を束ねる庭野正幸さん(稲姫ファーム)

米・そば

冷めたときの甘さは格別。
具を入れずに
塩むすびにするのがおすすめです

コシヒカリは成長すると他の品種に比べて丈が高くなり、風雨などで倒伏することが多く、栽培に手間がかかる。病虫害にも弱いので、化学肥料や農薬を使用して栽培することが多い品種でもある。

が、稲姫会(堀江正司会長)は群馬県の特別栽培基準の5割減の化学肥料と農薬でコシヒカリを栽培し、中でも食味値(満点100点)が83点以上という厳しい基準をクリアしたものを沼田を治めた真田信之の妻の幼名にちなんで「稲姫米」として出荷している。

「安心安全な米を提供したいし、環境にも優しいもの作りをめざしています」

 庭野正幸さんは平均年齢が60代の稲姫会にあって一番の若手ながら、先輩メンバーをまとめ上げ、メンバーが栽培したお米を買い上げて自身が代表を務める農産物直売所「やさいの杜」で販売、PRなど表に立って販売促進に取り組んでいる。日本では毎年のように減反政策がとられ、米の消費量も減り続けているが、稲姫米については県内だけで8割が売れるので余らないとのこと。

美味しい農産物の多い群馬県にあってこの売れ行きは、稲姫米の品質の高さの証だ。県民が稲姫米の美味しさをよく知ってということ。

「冷めたときの甘さは格別です。具をあまり入れないで塩むすびにするのがおすすめです。お弁当にも向いていますね」

 本当に美味しいお米はおかずがいらないと言うけれど、稲姫米はそういうお米なのだ。

旅館の写真

庭野さんにお話を伺った夜に幸運にも稲姫米のご飯に出会うことができた。宿の夕食時、まだお酒を飲んでいるうちに運ばれてきたご飯について何気なく聞いてみた。

「これは稲姫米ですか」

「はい、そうです」

 そうなんだ、これが稲姫米なんだ。すぐに茶碗を取り上げて食べようと思ったが、庭野さんの「冷めたときの甘さは格別」という話を思い出し、冷めるまでお酒を飲み続けた。いい感じで冷めた頃を見計らって茶碗を取り上げた。お米が立ってきらきら輝いていた。ひと口食べた。口の中に広がるふくよかな香りとともに甘さがふんわりとふくらんでいく。これですね、こういうことなのですね。誤解を恐れずに言うならば、美味しいお米であれば、誰もが食べたいと思う。パンや麺、パスタに押されても仕方のない、そうでもないお米であれば、わざわざ取り寄せたり炊いたりしないかもしれない。そういう米が残って、古米、古々米になっていく。

生産者がどれだけ細やかな気遣いで米に寄り添ったか、工夫を重ねて技を磨き、その技を駆使して作り上げたか。こだわりのあるお米だけが生き残っていけるのだ。そういう意味ではまさに稲姫米は生き残るお米。

しかしながら、庭野さんは現状に満足していない。

「プレミアム版も検討中なんです」

 プレミアムですか。

「完全無農薬での栽培です」

 穏やかで物腰が柔らかい庭野さんだが、この時だけ目にワイルドで力強い光が灯った。

明日を切り開いていく人は農業人に限らず、ときおりこういう目をする。完全無農薬のコシヒカリの栽培がどれだけ難しいのか、実際の難しさはわからないけれど、かつて新潟で、ある農家の人に聞いたことがある。

「コシヒカリは難しい品種だから農薬や化学肥料を使わないとできないよ」

 当たり前のようにそう言われて、そういうものかと思った。逆に言えば、庭野さんは当たり前ではないことをしてでも沼田の米作りを未来につなげていこうとしているということ。

「米作りは沼田の財産ですから、田んぼを減らさずに先輩から教わりながら美味しい米を作っていきます」

 そんな生産者が沼田にはいるのです。

取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香

株式会社稲姫ファーム
https://www.inahime-farm.co.jp/
認証品:稲姫米
住所:沼田市下沼田町762
電話番号:0278-23-1203
代表者:庭野 正幸


Farmer's Voice

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群馬県沼田市の認証ブランド「NUMATA BRAND」支える生産者さん。インタビューから見えた"生産者の声"を紹介しています。

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