こんにゃく、ぶどう、そば、わさび、そして。チャレンジを続ける求道者 宮田優一さん(宮田農園)

フルーツ

生食用としては藤稔(ふじみのり)。

実離れがしやすいんだけど、

この美味しさは別世界のもの。

収穫する宮田優一さん(宮田農園)

宮田優一さんは74歳だ。

そば処「山水」は宮田さんが店主をつとめるそば屋さんで、ここのそばはすこぶる美味しい。かための食感と味わい深さがあるものの、ざらつきがない分、ガチガチの田舎そばよりは随分と洗練されている。さっくり揚げられた天ぷらもいい。美味しいそば屋さんがたくさんある沼田でもさぞ人気の店なのだろうと思って見ると、店の前にはこんな貼り紙がある。

並んで待って食べるほどのそばではありませんと書かれた張り紙。宮田優一さん(宮田農園)

「並んで待って 食べるほどの そばではありません  店主」

宮田優一さん(宮田農園)のお蕎麦

これは人気店の証しに違いないが、宮田さんはそば屋さんをやりつつ、ぶどう園を経営している。このぶどうがまたすこぶる美味しいとのことで取材班はぶどうの収穫前から追い続けていた。

マンズレインカットの写真
宮田優一さん(宮田農園)

10月上旬、ぶどうの収穫を取材した沼田在住の高津修カメラマンから、取材に行けなかった東京チームにこんなメッセージが届いた。

宮田優一さんの育てた葡萄(宮田農園)

「宮田さんのぶどう🍇サイコーです😋」

宮田さんの弾ける笑顔とその手に大切に携えたぶどうが印象的な写真が添えてあった。

宮田優一さんの笑顔の写真(宮田農園)

期待に胸がふくらんで東京チームが沼田に入ったのは11月下旬。すでに生食用のぶどうはない。

そば屋さんでもある宮田さんが取材にこの時期を指定してきたのは、新そばを食べてほしいと思ったかららしいが、そば屋さんでぶどうの取材をするのはなんだか違和感があった。前述したようにそばは文句なく美味しいが、そばそのものを生産しているわけではないので農産品である「沼田ブランド」の取材対象にはならないのだ。そばを平らげて話のとっかかりが見えないでいたところへ、宮田さんがやってきた。

これちょっとつまんで食べてみてよ。

燻製ぶどうの写真

そう言って宮田さんが差し出したのは、生食用のぶどうではなく、

「燻製ぶどう」。

ぶどうが房ごとしおしおになっているが、持ってみると意外に重量がある。一粒だけ房からはずして皮ごと口に含んだ。かたくない。が、柔らかくもない。微妙ないい感じの食感だ。噛むほどに甘味、旨味がじんわりと口の中に広がっていく。少しだけ遅れて微かな酸味が頬の内側をくすぐる。

葡萄の写真

生食用のぶどうもさぞ美味しいのだろうと想像してみる。

そば。生食用のぶどうに燻製ぶどう。さらに認証申請中のわさび。

それぞれの繋がりがよくわからない。一貫性がある感じもしない。

思い切ってここまでの流れを聞いてみた。そもそも、と。

宮田優一さん(宮田農園)

こんにゃく農家をやっていたけど、6、7年で怪我をしてこんにゃくに比べたら体に負担が軽いぶどうをやることにしたんです。

ぶどう栽培に適した農地への土地改良をやってぶどうを作り始めた。それから25年。

そば処山水の看板

そば屋さん?今年で21年になります。わさび? ああ、わさびね、沼田市の農政の係長さんがわさびの話を持ってきてくれたんだけど、自分の家の敷地に湧き水があってもともとわさびには興味があったからそれをきっかけに1年くらい勉強した。迦葉山の裏に水源豊富な地域があって、そこにビニールハウスを建てて栽培を始めたんですが、ある年大雪で全滅した。10年くらい放っておいたんだけど4年くらい前に8人の仲間が手伝ってくれてわさびを復活させたんです。

わさびの写真

いくつものテーマがクロスしてきた。恐らく宮田さんの頭の中では太い一筋の道をしっかりとまっすぐ歩いているのにすぎないのだと思う。燻製ぶどうの味わいがまだ口の中に残っているうちに、ぶどうの話をもっと聞いておきたいと思った。

葡萄

生食用としては藤稔(ふじみのり)ですね。実離れがしやすいんだけど、この美味しさは別世界のもの。なるべく樹上で完熟させて遅くに収穫します。

宮田優一さん(宮田農園)

もちろんそのままでも美味しいけど、ジュースでもデザートでも。他に緑、赤、黒の3色のシャインマスカットも作っています。こちらは実離れしにくくていい。

宮田優一さん(宮田農園)

ある日、中学の同級生が宮田さんを訪ねてきた。燻製機をやるから燻製をやってみないかと。おもしろそうだとすぐに飛びついた宮田さんはいろいろなものを燻製にしていくうちに、ぶどうを燻製にしようと思いついた。

2昼夜かけて燻製ぶどうを作ってみた。品種的には生食用でも別世界の味わいを持つ藤稔が適していることがわかった。

宮田優一さん(宮田農園)

10月11月、それぞれ100房ほどの藤稔を食品の細胞壁が壊れにくいCAS冷凍という特殊な冷凍機で冷凍に。細胞壁が壊れなければ、ドリップが出ない。よって水分も旨味も保持できると宮田さんは考えたのだと思う。

前年の秋に収穫して即冷凍したものを1月頃に燻製にかける。今は燻製にかけるときに桜チップを使っているが、今後はぶどうの枝のチップを使いたいという。

出会った人たちが協力してくれた。自分でもぶつかっていったけど、いろいろな人たちが近づいてきてくれた。そんなふうに宮田さんは振り返る。確かに宮田さんにしてみればそういうことなのだろうけれど、彼らはみなこの宮田さんの少しはにかんだ子供のような笑顔と真摯な姿勢に惹かれ、引き込まれていったのだと思う。しかし、そもそも、の答えにはまだ届いていない。最後に聞いてみた。なんで、そんなにいろいろことに次々にチャレンジできるのですか。

宮田優一さん(宮田農園)

世の中にないもの、そんなものを作り出せるのが楽しい。

そういうのを自慢したい。

まあ、自慢はしないんだけど。

そんな生産者が沼田にはいるのです。

取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香

宮田農園
認証品:ぶどう
住所:群馬県沼田市秋塚町113
電話番号:090-3526-2537
代表者:宮田優一

宮田優一さんの育てた葡萄(宮田農園)
Farmer's Voice

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群馬県沼田市の認証ブランド「NUMATA BRAND」支える生産者さん。インタビューから見えた"生産者の声"を紹介しています。

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