大きな木で育てると
身の締まりがよく、日持ちもする
ジューシーなりんごができます。
細かい粒子が、ほんの少しだけ赤みがかったりんご果汁の中でちらちらと動いている。グラスに注いで、ひと口飲んだ。さらりとした見た目の質感のまま、口の中には濃厚な甘みが広がった。これは、嬉しい違和感だと思いながら、次の瞬間に舌にたくさんの粒の存在を感じた。これは、中で動いていた細かい粒子だ。この粒子がりんごの持っている美味しさを決定的に印象付ける。そんな効果をもたらしていると感じた。
これが染谷真さんの林檎じゅうす。無添加すりおろし果肉入り、とラベルにある。粒子の正体はすりおろしたりんごの果肉。
「1リットル瓶ですりおろしたりんごが5〜6個分入っています」
ぽつりぽつりと言葉少なに染谷さんは話す。すこぶる饒舌な林檎じゅうすとは対照的だ。
おじいさんの代に今のりんご園ができ、2021年で60年を迎えた。「樹齢50年を超える大きな木の下で」をキャッチフレーズにしたパンフレットを見ると、9月から11月の下旬まで10種類の品種で切れ目なくりんご狩りが楽しめることがわかる。その中には近年人気のぐんま名月もある。
「ぐんま名月は美味しいです。ふじは出始めの11月前半は淡白ですが、後半は美味しい。あと、あかぎも美味しいです」
染谷さんが美味しいと言うと、そうなのだと素直に思う。この人の飾らない言葉には不思議な力がある。
「大きな木になるりんごは身の締まりが良く、日持ちも良くなるんです」
へえ、そういうものか。大きな木をうまく育てていくコツのようなものはあるのだろうか。
「基本的なことを疎かにしないでやっていく。凡事徹底ですかね」
青果のみに集中する農業家と思いきや、そうではない。沼田には9月から11月いっぱい「沼田ピクニック」というサービスがある。10園前後のりんご園が参加して「沼田ピクニック」の幟を立てる。これはりんご狩りの入園客がその園でコールマン製のピクニックグッズを貸し出してもらい、園内の所定の場所でシートを広げてピクニックを楽しむというもの。ピクニックグッズ一式のレンタル料は基本料金1000円(園によって詳細は異なる)。これぞ知る人ぞ知る楽しいサービスだが、染谷さんはこのサービスにいち早く参画した。
園それぞれの趣向があるのだが、染谷りんご園ではキッチンカーが登場してクレープを焼いて販売したりするという。染谷さんはりんごを青果としてだけでなく、先のジュースにしたり、ジャムにしたり、煮りんごにしたりと加工にも積極的。
ここまできて一つの仮説に到達した。りんごの可能性をどこまでも追求していく探究者が染谷真という人なのだと思う。そうでなければ、搾汁するだけで出来上がるジュースにわざわざすりおろした果肉を入れて仕上げたりしないはず。青果も、加工品も染谷さんの視線の先で確実に進化していく。染谷さんはいわば「りんご文化」を育む人なのだ。
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
染谷りんご園
http://www.someya-apple.com/
認証品:りんご、林檎じゅうす
住所:沼田市久屋原町69-1
電話番号:0278-23-0047
代表者:染谷 真