殺虫剤、殺菌剤は一切しません
稲にも土にもストレスをかけず
株間を空けて
薄く植えてしっかり育てる
星野健一さんのお米は炊飯器で炊くだけでも粒同士が連携し合って全体にふっくら仕上がる。
甘くもっちりとしているのが特徴のコシヒカリだけれど、粒がしっかりしていてそれぞれ自立感があり、味わいとしてはむしろさっぱりしている。

何度か寿司めしにしてみた。これがいい。実にいい。
寿司酢の衣を纏った粒たちはまるでよそ行きの服を着せられた子供たちみたいに何だか楽しげにも見える。
寿司米ではないのでこういう使い方は星野さんには申し訳ないと思ったが、あまりにも美味しくて病みつきになってしまった。

星野さんは公務員を経て起業し、レンタルスキーショップやお弁当屋などを経営した後、りんご栽培を始めた。
そして20年ほど前に稲作へ。自家用から少しずつ増やしてきた。
そんな経緯があるせいか星野さんのお米づくりは他の農家と少し違う。

普通は日照時間の長い開けた場所に田んぼを作る農家が多いのだが、星野さんの田んぼは、皇海山のふもと、日照時間の比較的短い山間部、しかも川沿いにある。
「日照時間はたしかに短いんですが、寒暖差があるんです。川沿いは冷えるので。源流に近いところで水には困らない場所です」
寒暖差があると植物の実は一般に糖度が上がったり、旨みが増す。
ここのところの夏から秋にかけての全国レベルの異常な暑さで昼夜の寒暖差が少ないと植物は実に栄養を蓄えにくくなる。
そんな気候状況を見据えての場所選びだったのだろう。

先祖がずうっとこうしてきたから、周りの農家がみんなこうしているからといった先入観や固定観念がない。感覚はまさに農業ベンチャーだ。

殺虫剤、殺菌剤は一切しない。なるべく稲にも土にもストレスをかけないように心がけている。
「手入れをすべてやればいいというわけではない。肥やしも入れすぎ、厚く植えるのもだめ。私はごく薄く植えるようにしています」

植物としての自立を大切にしているということ。
普通は消毒もしっかりして、肥やしもたくさん与えて株間を詰めてびっしりと厚く植えて半ば強制的に品質と量を栽培する方向へいきそうだが、星野さんは持論を貫く。

「厚く植えると枝分かれが進まないんです。最低限の肥やししか与えずに株間を空けて薄く植えるとしっかり根を張り、枝分かれが進んで実りが多くなることにつながります」
コシヒカリという品種は背が高く、台風時などで簡単に倒伏する。実りの季節のこの事態は米農家にとっては大ダメージになる。それを株間を空けて植えて稲自体の自立を促すことで最小限に防ごうとしているのだろう。
かくして、2024年度に収穫した星野さんの米の食味値はすべてSランク。美味しいはずだ。

次は全国の米名人の米が一堂に会するような品評会に出したいと星野さんは語る。
そんな話を聞きながら、星野さんの米の粒そのものが炊いて食べると自立しているように感じるのはなぜだろうとたずねてみた。
「米の粒の大きさを揃えてるんです。小米は落とす」
なるほどと相槌を打ちながら、えっ、その小米は?捨てちゃう?
「知り合いが烏骨鶏を育てていて、その餌になっています」
生産物の循環もしっかり業務フローに取り込まれている。

沼田という農作物の栽培に適した地域の特性を活かしながら、新しい発想、新しい切り口で稲作に邁進する起業家。
そんな生産者が沼田にはいるんです。
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協力者/小林髙義
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
星野健一
認証品:沼田産コシヒカリ(夢すかい)
住所:群馬県沼田市利根町高戸谷 229番地
電話番号:090-8846-8447
メールアドレス:3588ken_gmail.com
代表者:星野健一
