材料から自社で作ることにこだわる 松井希賢さん(松井農産)

加工品

手塩にかけた芋を使って
気持ちをこめてこんにゃくを作っています

そもそもこんにゃく芋がどんな形状かも知らなかった。夏から秋にかけての取材で国道沿いを車で移動しながら、見慣れない作物の畑があちらこちらにあった。

松井さんa

北関東に植わっている植物としては妙な違和感がある。丈はあまり高くない、低木のような植物が整然と植わっている。孟宗竹のミニチュア版? 寒さに強そうにも見えない。茎はしっかりとして葉が真ん中から上のほうに集中して小さなヤツデのよう。葉の先は尖っている。聞けば、こんにゃく芋。土から上の部分はわかったけれど、土の下はどんなことになっているのかと気になっていた。

松井さんB

1月に入って再び沼田を訪れ、松井農産へ行き、土の下の芋を見ることができた。

「こんにゃく芋は東南アジア原産で寒さに弱いので、冬場には一度掘り出して5月頃にまた植え付けるんです。その工程を3年間繰り返してやっと収穫となります」

 本社からすぐのところにある種芋の選別作業場で社長の松井希賢さんが教えてくれた。

松井さんC

植え付けを待つ、掘り出されたこんにゃく芋が木製のパレットにびっしりと並んでいる。それが何段にも積み重なって倉庫を占めている。芋はごつごつとしていて、植物というより岩石のようだ。

松井さんD

作業場では十数人の人たちが選別の作業を行なっていた。種芋をラインに流す人、選別する人、選別した芋をパレットに並べる人、パレットをフォークリフトで運ぶ人。皆、しんしんと底冷えのする作業場の中で黙々と作業を続けているが、どこか楽しそうに見える。活気がみなぎっている。

 先代が「量販店のこんにゃくは美味しくないから、栽培するだけではなくて自分らで美味しいこんにゃくを作れないものか」と思い立ち、広島まで加工の勉強に出かけた。試行錯誤を経て昭和58年からこんにゃく製品の加工を開始。今では「がんこ亭」の屋号の下、こんにゃく製品を中心に18商品のラインナップをカタログに掲載するほどに。こんにゃく農家として内閣総理大臣賞、農林水産大臣賞(2度)を受賞している。

「最初は凝固剤として炭酸ソーダを使っていたんです。これを水酸化カルシウムに変えたら粘りが出て風味が増した」

松井さんE

 松井さんがそんな話をしてくれているときに、ビニール袋に詰め込まれた出来立ての、玉の生芋こんにゃくが運ばれてきた。茹でてすりおろして練って、たった今固まったばかりの、出来立てあつあつのこんにゃくだ。袋の上から押してみる。ぷにゅぷにゅしていて、柔らかいし弾力がある。和のスイーツのような趣。選別場で見た岩石がここまで可愛らしく美味しそうな姿になるのはかなりの驚きだ。手作りの温もりが感じられる仕上がりも印象的。

松井さんF

「機械を使って作っていますが、手作りを継続するための機械です。どうやれば手作り感のある仕上がりになるか、それを一番大切に考えて機械をカスタマイズしました。だからこの機械はうちにしかないんです」

 量販品のこんにゃくは型に糊状になったこんにゃく芋と凝固剤を流し込んで固める、充填こんにゃくと言われるもので、松井さんのこんにゃくとは製造方法が違う。詳しい製造方法はわからなくても、ビニール袋の上から触っただけで松井さんのこんにゃくがどれだけ美味しいのか想像できた。

松井さんG

3年がかりで大切に育て上げたこんにゃく芋を使って美味しいこんにゃくにする。美味しいものを作る、美味しいものに向かっていく人というのは、どこかきらきらしている。選別場の人たちに活気が見えたのも、彼らがこの美味しさをよく知っていて、それを信じているからではないだろうか。松井さんに聞いてみたくなった。この美味しいこんにゃくをどうやって食べるのが好きですか。

「薄切りにして、刺身こんにゃくとしてですかね。わさび醤油でも、めんつゆでも美味しいです」

 松井さんは少し考え、ちょっとだけ困ったような表情で答えてくれた。そんな質問を突然されても普通の答えしか出てこないとご本人が感じたからなのか否か、それはわからないけれど、誰もがこのとっておきのこんにゃくの美味しさを簡単に味わえる調理を教えてくれたのだと思う。

 そんな生産者が沼田にはいるのです。

取材/堺谷徹宏
撮影/沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香


編集後記

 東京に持ち帰った「生芋こんにゃく」を松井さんに教えられた通り、まずはスライスして刺身こんにゃくとしていただきました。弾力があるけど、充填こんにゃくのようなべったりとしたどこも同じ圧の弾力ではない。ところどころの食感が違う。手づくり感たっぷり。こんにゃくとしての旨味、あの岩石みたいな芋の旨味が感じられる。家族も大喜びだ。数日後に火鍋風の辛味の強い鍋を作り、生芋こんにゃくを入れて煮込んだ。味しみが素晴らしい。辛味がしっかり入ってこんにゃくの旨味と絡み合う。肉も野菜もいろいろ入っていたけれど、こんにゃくが主役の鍋になった。家族はさらに大喜び。松井さんちの生芋こんにゃくはわが家で大ヒットしました。

松井農産
https://matsuinousan.com/
認証品:生芋こんにゃく、味付玉こんにゃく、ピリ辛玉こんにゃく、かんでこんにゃくビーフ味
住所:沼田市秋塚町312
電話番号:0278-24-5916
代表者:松井 希賢

Farmer's Voice

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群馬県沼田市の認証ブランド「NUMATA BRAND」支える生産者さん。インタビューから見えた"生産者の声"を紹介しています。

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