美味しいものを
たくさん作るためには
手間暇を惜しみません
群馬県高崎市に「まるおか」というスーパーがある。
陳列されている商品は生鮮品も加工品もバイヤーのこだわりが感じられるものばかり。
オリジナルのPB品も多い。全国の志の高い生産者たちがぜひ採用してほしいと商談にやってくるし、買い物客も地元ばかりではなく東京や軽井沢あたりからもやってくる。
ここに置いてある品々に間違いはないという認識が生産者にも買い物客にもあるからだ。
この知る人ぞ知るこだわりスーパーで中條綾子さんのパプリカが売られている。

取引は10年ほど前から。赤、黄、オレンジのパプリカ全アイテムが並び、華やかなコーナーを構成している。
知人の紹介で採用提案にバイヤーを訪問した際、2kg箱に綺麗に並べたパプリカを見せただけで採用が決まってしまったという。
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「説明しようとしたのに説明させてくれないんです。これ、このまま売っていいですかと」
以来、中條さんのパプリカはまるおかの生鮮品コーナーの顔になった。
生鮮バイヤーの目線で中條さんのパプリカを見てみる。
パプリカは美しい色合いが一つの特徴だけれど、中條さんのはとりわけ美しいように見える。採れたてのものでさえ照りがあり、ピカピカに磨かれたように輝いている。そのうえ、匂い立つオーラのようなものがあって触ったり、眺めているだけでも「気」を感じる。
生でかぶりつくと旨みがジュワッと押し寄せる。美味だ。

年に2度収穫する。
7月から10月までの夏作と11月から6月までの冬作。
沼田の土には浅間山などの火山が噴火した時の軽石が混じっている。
そのため土中の通気が良く、パプリカの栽培に適していると中條さんは言う。
さらに秋に収穫できるのは沼田の気候、土壌によるところが大きいらしい。
「神に選ばれた場所です」と中條さん。
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種は一粒100円もする。ハウスの中では5000本以上のパプリカが育つ。

10月の初旬に中條さんのビニールハウスを訪れた。
暦は秋でも世界は夏のまま。ハウスの中ではパプリカの収穫が行われている。
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「日差しが強いのでハウスの外側には熱線をカットする遮光塗料を塗っています。手間はかかりますが、これをしないとパプリカは暑さで育ちません。暑すぎると実がならないんです」
生産者によってはこれが大変すぎてパプリカの栽培を断念することもあるというが、中條さんはこの手間仕事を2度も行う。
6月に入る前にまず一度目。8月に入る前に二度目。一度目の上に重ね塗りをする。これにより品質も収量も上がるという。
美味しいものをたくさん作るためには手間暇を惜しまない。
食に、美味しいものに関わりたい、こだわりたいと思い続けてきた中條さんのポリシーだ。
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「だって美味しいものを食べるとみんな笑顔になるじゃないですか」
パプリカにパワーをもらっている。食べると手足がぽかぽかしてくるという。

それは暑い時期の熱を必要な分だけしっかり取り込んで成長し結実してくれたパプリカの恩返しかもしれない。
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作物に人一倍思いを傾け、しっかりとコミュニケーションをとる。
野菜や土地への感謝を忘れない、
そんな生産者が沼田にはいるんです。
[番外編]

パプリカの仲間にパレルモという品種がある。
通常のパプリカ同様に鮮やかな色合いで、形状はししとうや万願寺とうがらしのように細長い、日本ではまだ珍しい品種だ。
中條さんのパレルモは他の生産者のものよりも相当大きい気がする。
「パレルモは世界一美味しい」と中條さんが言うので都内の契約店を探して中條さんのパレルモを手に入れた。思っていたよりも相当大きい。容積で比べてみると一般的な万願寺とうがらしの3倍以上あるのではないだろうか。
切って生でも食べられると言うが、勧められた食べ方は肉詰め。慎重に縦に割って塩麹をまぶして少し練った挽肉を詰めて、オーブンで焼いた。
焼き上がりの熱々をナイフとフォークで切り分けてひと口食べて驚いた。
肉からじんわりと出たジュースがパレルモの旨味いっぱいのジュースと融合してとんでもなく美味しいソースが出来上がっていたから。
肉の添え物になる野菜はたくさんあるし、肉と一緒に加熱されて肉の引き立て役になる野菜もたくさんあるが、中條さんのパレルモは肉と一緒になって料理そのものを引き立て合う野菜。この野菜は特別な野菜だ。
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取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
中條農園
認証品:パプリカ
住所 電話番号:非公開
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