空気の綺麗なところで育った
とちの木から採集したとち蜜は
コクと香りが違います
「幼くてまだよくものがわからない頃から家にはとち蜜がありました」
中村達哉さんはそう語る。
今でも自宅で使用する甘味をつける調味料にはとち蜜を使用しているという。
曽祖父の代から数えれば110年を超える。達哉さんで4代目となる。
「ひいおじいさんは趣味で養蜂をやっていたのでまだ商売にはなっていなかったと聞いています。だから実質的には私で3代目ですが」
しかしながら110年の歴史は利根沼田地域の養蜂に流れを作ったことは確か。
実際に現在の沼田ではちみつを採集している何軒かの養蜂家は中村養蜂園からの暖簾分けで、中村家は沼田の養蜂家のルーツ的な存在となっているのだ。
そんな中村家の長く蜂と関わってきた歴史を証明するものがある。達哉さんの実家前に立つ「蜜蜂の供養塔」だ。
「はちみつをとるために働いてくれたみつばちがたくさんいたので、これはちゃんと供養しないといけないということで石碑を建てました」
代々、蜜蜂を育て蜜蜂とともに生き、はちみつ採集と販売を生業にしてきた中村家の思いがそこにこめられている。
「四季の気候に応じて蜜蜂が活動しやすいよう、巣箱の設置場所を変えながら、多くのはちみつ採集するための元気のよい蜂群を維持、管理しています」
中村家は尾瀬の大清水、鳩待方面でとち蜜を採集するが、これは尾瀬国立公園内に自生する豊富なとちの木からとれる純度が高く、新鮮なとち蜜だという。
とちの木は主として東日本、特に北関東から東北にかけて分布している落葉高木。白いクリスマスツリーのような花が木全体のあちらこちらに垂直に空に向いて咲く。アカシアと並んで日本の蜜源の主たる植物だ。
とち蜜はこの花の豊かな香りそのままにフローラルな印象。柔らかな甘さも特徴的。蜜蜂が好んで吸いにくるらしい。
「空気の綺麗なところで育ったとちの木の蜜なのでコクと香りが違います」
と達哉さんは語る。
一般にとち蜜は鉄分やミネラル分を豊富に含み、ヨーグルトや焼肉、トーストなどと相性がいいと言われているが、達哉さんにおすすめを聞いてみた。
「おすすめは肉じゃがとコーヒーですかね。自宅には(甘味の調味料は)とち蜜しか置いていないので全部とち蜜になるんですけど(笑)」
自然との共生という言葉が浮かんだ。植物と蜜蜂、人。
三者が関わり合ってそれぞれがバランスを保ちながら生きている。達哉さんはそのことをあえて言葉にはしない。日々、自然の中に身を置き、植物のことを考え、蜜蜂を思い、仕事をして美味しいはちみつを集める。自然のままに、そして歴史の流れに乗って。
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
株式会社中村養蜂園
認証品:尾瀬のとち蜜
住所:沼田市白沢町生枝366
電話番号:0278-53-2238
代表者:中村 達哉