大きな農園と
同じことをやっていてはだめ。
小さい農園だからこそ
1本1本に目が行き届く栽培を
心がけています。
1995年、さくらんぼ狩りをメインにした観光農園「斉藤園」が開業。
当時、現在3代目となった齋藤雄介さんはまだ幼稚園児だった。
「もともとはこんにゃく芋を栽培し、蚕を飼っていました。おじいさんは周りの農家がどんどんりんご園になっていくのを見て、後追いは嫌だと思った。それでさくらんぼです」
おじいさんは開業当時すでに60代だったというから、家族のその後を守るための一世一代の攻めの決意だ。
お父さんは会社員だったが、退職後に農園に入って2代目を継承した。
齋藤さん自身も県外に出て会社員をしていたが、2年前に帰郷。
「戻ってきてすぐに研修に行ったんですが、そこで圃場に除草剤をたくさん撒いているのを見て、これは嫌だなと思ったんです」
斉藤園では油かすをメインにした堆肥を圃場にすき込んでいる。
安心、安全なフルーツを育ててそれをお客さんに提供しようという考えだ。
大きな農園と同じことをやっていては勝ち目がない。小さいからこその、1本1本目が行き届く栽培を心がけている。
「どうやったら質を上げられるかを常に考えています」
6割がリピーター客。以前の職場ではエンドユーザーに接する機会があまりなかったので、一人一人のエンドユーザーと会って笑顔を見られるのが何より嬉しいという。
圃場に案内してもらった。圃場に一歩足を踏み入れると、堆肥のぽわんとした匂いが漂ってきた。
熱をふくんで発酵が進んでいるふわふわの圃場だ。この圃場には親子孫3代の思いや汗も染み込んでいる。それら目に見えないものも一緒に発酵して、いい土を作っているのだと思った。
「葉を落とさないように気をつけています」
光合成で栄養をしっかり蓄えられるようにとの配慮だ。よく見ると、どの木も丈がそれほど高くない。むしろ、低い。
「お子さんが手を伸ばしてさくらんぼを取れる高さに設定しています」
なるほど、こういうことが1本に目が行き届く栽培ということなのだ。
さくらんぼ畑の背後に山が迫っていた。さくらんぼが実る6月頃、さくらんぼの赤とバックの山の緑のコントラストが美しいと齋藤さんは言う。それは観光農園としてのアピールポイントの一つになる。インスタ映えする写真も撮れるのだろう。
機械が記録する記憶と人の生の記憶が連携して素敵な思い出として残っていく。その場でもいで食べたさくらんぼの美味しさも、柔らかくて温かい圃場の記憶もそこに絡めとられていく。それは、この斉藤園のような細やかな配慮があってこそ。
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
さくらんぼの斉藤園
https://saito-en.com/
認証品:さくらんぼ
住所:沼田市上発知町2192
電話番号:0278-23-9820
お話を伺った人:齋藤 雄介