沼須ねぎは葉も身も柔らかくて
煮込みに向いているし、
メニューの主役になれる素材です
沼須ねぎが細長い段ボールに詰め込まれて、沼田市から送られてきた。
沼須ねぎは沼田市の伝統野菜。
まずはグリルで焼いてみようと思った。洗って5cmくらいにブツブツと切って全体にオリーブオイルを振りかけ、塩胡椒をしてグリルに入れて弱めの火で7、8分焼いた。熱々をいただく。柔らかいが表皮には歯応えも残っている。内側はねっとりとして甘い。表と内と2度楽しめる。これは美味しい。
沼須ねぎは九条ねぎや糸島ねぎのようなしゃっきりとした青ねぎの系統ではなく、しっかりとした粘度のある白ねぎ系。白ねぎ系ではあるが、千住ねぎのようなしゅっとした見た目ではない。味や食感は同じ白ねぎ系のずんぐりした下仁田ねぎに似ているが、なんというかもう少し洗練された甘味がある。
「沼須ねぎは何もせずに、このままいくと消滅の可能性がある。この地域でも沼須ねぎと意識してねぎを食べていない人が多いので、地域の中でも沼須ねぎの存在の周知、浸透を進めていきたい」
こう語るのは沼須ねぎ保存会の金井孝治会長。
7年ほど前に沼須ねぎ生産者組合が発足した。レシピ開発や生産者講習会や苗の販売会を実施するなど地道な活動を続けてきた。そして令和2年には沼須ねぎの継承と伝承を目的に掲げ、沼須ねぎ保存会として新たに船出し、金井さんは会長に就任。
利根実業高校と連携して、生物資源コースの生徒さんを中心とした保存普及活動を推進している。
「病気にかかりやすいし、葉が折れやすいので栽培は難しいです」
「煮込みに向いています」
「メニューの主役になれる美味しい野菜です」
「甘みの強さをアピールしています」
保存普及活動に関わっている利根実の生徒さんがそれぞれの思いを語ってくれた。彼らはその活動の一環で地元の農産物の収穫イベントなどで沼須ねぎの魅力を訴え、販売を行っている。販売会では概ねすぐに完売になるという。
保存会の角田泰夫副会長(写真中央)が生徒さんたちの圃場に出て植わっている沼須ねぎを見ながら「おれよりも上手じゃないか」とでも言わんばかりに目を細める。
利根実の大木秀一先生は生徒さんの先頭に立ち、実作業の指導を行ってきたが、金井会長、角田副会長に栽培時の工夫やチャレンジについて細かく報告して指示を仰いでいる。先生ご自身もこのプロジェクトを楽しんでいるように見える。これはなかなかいい連携だと思った。
1週間ほど前に大雪が降り、まだ圃場のあちらこちらに白い雪が残っている12月の下旬、寒空の中で沼須ねぎは両側の畝からしっかり土寄せされてすくっと空へと向いていた。凛としたその姿は、新旧の生産者たちの努力の粋を栄養として吸い上げて育っているような気がした。こんなに美味しいねぎを失くしてはいけない。そんな熱い思いもみなぎっている。
上着も着ないで圃場に案内してくれた生徒さんたちは寒そうにしていたけれど、どこか楽しそうに、そして誇らしげに見えた。このねぎは大丈夫だ。
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
沼須ねぎ保存会
認証品:沼須ねぎ
住所:沼田市下之町888(事務局:沼田市役所農林課)
電話番号:0278-23-2111(事務局:沼田市役所農林課)
代表者:会長 金井 孝治