いいぶどうじゃないと
いいワインはできない。
だから自分でいいぶどうを作ります
齋藤豊さんのゆたかぶどう園では、生食用とワイン用の2種類のぶどうをそれぞれ最適な方法で栽培している。
生食用の栽培には大手ワインメーカー、マンズワインが開発した「マンズレインカット方式」を採用。ぶどうは垣根を設けてそこにつるを這わせて育てることが多いが、雨の多い日本では雨を避け、直射日光を防ぐことが良質のぶどうを育てるとの考えで生まれた方法だ。
ビニールハウスのように植物全体を覆って部屋に入れてしまうのではなく、パイプをアーチ状に組み上げて天井にあたるアール部分のみをシートで覆う。
簡単に言うと、屋根だけつけて壁がない状態。風通しがいい。
取材に伺ったのは 8 月の暑い盛りだったが、ぶどうの樹々は気持ちよさそうに青々と育っていた。齋藤豊さんは目を細めてぶどうの樹を愛おしそうに眺める。
「ぶどうの生食は棚で育てるよりも絶対にレインカット方式のほうが美味しい」
一方で、ワイン用のぶどうは垣根での栽培。肥料にこだわった土作りをしているため糖度の高いぶどうが実る。
「いいぶどうを作ります。いいぶどうじゃないといいワインはできませんから」
齋藤さんはかつて郵便局に勤めていた。ご両親が主にぶどう園を経営し、齋藤さんも郵便局勤務を続けながらサポートしていたが、勤続 25 年をきっかけに退職し、ぶどう園経営に専念。そして仲間とぶどう栽培を続けるうちにワインを作ろうという話になった。
「沼田の地形はフランスのボルドー地区と同じ河岸段丘で、ぶどうの栽培地としては日本国内でも数少ない最適地の一つなんです」
ヨーロッパの土壌をイメージした土作りに取り組んだ。特にイタリアの土を細かく分析。研究の成果が文字通り実り、山梨の醸造所に醸造を依頼して最初のワインが完成した。
「初めてのワインには感動しました。」
「自分たちが育てたぶどうで作ったワインを仲間5人で飲みました。ワインは飲んだことはあるけれど、皆知識も経験もほとんどなし。ワインができて2年目に販売免許を取得しました。ぶどうの栽培には自信がありましたが、ワインを知らずに販売しようとしていました」
2010 年からワインを売り始めたが、さまざまな苦難があった。特に価格面では、卸先である販売店との折り合いが難しかった。安売りされたり、挙句に返品されてきたり。
そんな中でも齋藤さんはワインのクオリティを最重視して、ワイン用のぶどうの栽培に取り組み続けた。
いいものを作って高く売ろう。
日本一のワインを作ろう。
そういう思いを胸に山葡萄とメルロー種を交配した「富士の夢」で始めたワインぶどう作りを続けた。結果、雑味がなく、香り豊かで味わい深く上品な甘味を感じるワインが出来上がった。
さらには、試験的に白ワイン用の「北天の雫」を作り、糖度( ぶどうの熟成) にこだわり、香り、酸味、渋味、品種の研究を続けている。
齋藤さんの目標地点はまだ先。日本一のワインをめざす。でも、そこまで行けたなら、次は世界をめざすことは想像に難くない。
郵便局で内務の仕事を実直に続けていた齋藤さんはアグレッシブに次のステージ、そのまた次のステージへと進んでいく。
「これからはメジャーな品種にもチャレンジします!」
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
ゆたかぶどう園
https://www.yutaka-budou.com/
認証品:ぶどう、赤ワイン「天の雫」
住所:沼田市秋塚町219
電話番号:090-4759-2248
代表者:齋藤 豊