国によって作り方も味も全然違う。
各国のシードルを見ながら
世界旅行をしている気分になれます
東京・神田駅からほど近い飲食店街に藤井達郎さんのお店「エクリプス・ファースト」はある。薄暗がりの中、少しだけ明るいカウンターの内側で藤井さんは忙しそうに立ち働く。
ここはウイスキーとりんごのお酒「シードル」が飲める知る人ぞ知るBAR。
ここに来れば常時約30種類のシードルが飲める。
その中には藤井さん自作のものもある。
シードルは総じて甘めなので、食事をしてもう少し飲みたいというときの食後酒としても向いている。
「シードルは国によって全然作り方も味も違うんです。多様性があるし、ワインよりも多彩な感じです。シードルを見ながら世界旅行をしているような気分になれます」
お店のオープンは2015年。
藤井さんは独立時にウイスキーとシードルを目玉にしようと決めていた。
それは恐らくお酒造りの修行をしていたスコットランドで、スコッチウイスキーとともに触れたシードルに魅了されていたからだろう。
さらに、生まれ育った沼田の産品を扱うことを最重要視して2021年、
なんと沼田産のりんごを原料にした自作のシードルをラインナップに加えている。
もともと畑として使っていた土地に藤井さんは醸造所を作った。
「シードルを自分で作ることになったきっかけは地元のりんご園からシードル用の品種をもらって、醸造所もやったらと勧められたことです。
沼田起業塾で8か月勉強して、卒塾後に醸造所のプランを作成しました。
もともと自分で作ることに強い思いがあったわけじゃないけれど、自然にそんな感じになったんだと思います」
藤井さんは沼田という自身の故郷の農産物を使ってシードルというお酒を作れることが誇りなのだと言う。
沼田は1年を通じて、昼夜を通して寒暖の差が激しく美味しい農作物ができることで知られている地域。
りんご園はりんご狩りを企画する観光りんご園だけでも100園を超える。
そんな有数のりんご名産地の高品質なりんごをシードルの材料として確保できることはシードルそのものにとって相当のアドバンテージになる。
藤井さんは沼田のりんごの高い品質をそのままシードルというお酒に反映させているからだ。
シードルの材料には樹上完熟のりんごを使う。1本のシードルに5〜6個の糖度の高い贅沢なりんごを使う。
おりも一緒にボトリングすることでより香り高さを出し、酸化防止剤を極力使わず、人工ガスを充填するのではなく、瓶内で二次発酵させて酵母由来の天然炭酸ガスを含ませることに成功している。
藤井さんは大手とは全く異なるひたすら丁寧なハンドメイドスタイルの製造方法で独自の商品性を持つシードルをなんと10種類も作り上げた。
これだけのもの作りをしているうえに、さらにBARの経営、営業にも時間とエネルギーを裂く。
自宅、醸造所がある沼田とお店のある東京を往復する日々の中で、睡眠時間の確保も容易ではないはずなのに、口を開けば、沼田の自然環境に、沼田の生産者に、そして沼田のりんごへの感謝の言葉がこぼれ出てくる。
「弊社は設備も小さく歴史も浅い製造業者ですので、同業他社様と比較して何かに秀でているということはありません。
強いて言うなら、現時点では規模が小さいことで1本1本の製品と向き合うことができることや、小さな販路ゆえ消費者のフィードバックが届きやすいということがあるかもしれません。
ただそれらは、優れている点ではなく、今後よりよい製品を作っていくための課題でもあります」
とにかくあくまでも謙虚で前向き。
藤井さんは今年43歳になる。まだまだ若いけれどあまり無理をしないでほしい。
また、神田にいくのでシードルを飲ませてください。書き手、いや飲み手としてはそう願うばかりだ。
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
Fukiware Cidrerie フキワレ シードルリー
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認証品:シードル
住所:群馬県沼田市利根町平川230-1
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代表者:藤井 達郎