山とともに生きながら
自らの手で菌床を
作ることからやっています
金子美代次さんの舞茸には華がある。
黒と白。どちらも美しい。栽培室の中で菌床から伸びたしっかりした茎が枝分かれし、その先にたくさんの小花の蕾のような傘がふんわりと開き、膨らんでいる。
「黒なら天ぷら、白ならお吸い物にするのがおすすめです」
金子さんの舞茸は見栄えがいいので、うどん専門店など和の飲食店からの引き合いが多い。お店からのいろいろなニーズに応えた舞茸を作るため、菌床に使用する栄養体に工夫を凝らすこともあるという。菌床は植物であれば、肥料が施された土のようなもの。舞茸は菌床の中の栄養物質を吸収して育つ。
「菌床を作っている工場を見ますか」
店舗から車で5、6分のところにある菌床工場の中は湯気と熱気、それになんとも言えない甘い香りに満ちていた。その香りは紛れもなく食べ物のもの。昭和人が幼い頃に台所で嗅いだような手作りの懐かしい香り。温かいおやつのようなほっこりする香りだ。
「広葉樹をおがくずにして、そこへふすま(小麦の表皮)やおから、とうもろこしなどを混ぜ込んで8時間炊いて菌床を作るんです」
なるほど。おがくずは食べられないけれど、ふすまもおからもとうもろこしも全部食べもの。それらを一緒にして炊くのだから、美味しそうな香りがするわけだ。
「出来上がった菌床に菌を植え付け、室温21〜22度で育てておよそ2か月で舞茸が発生します。植えてから出荷までは90日間かかります」
時間差を設けて植え付けられた舞茸たちが各栽培室で気持ちよさそうに育っていた。金子さんの舞茸は本当に美味しいそうだなと思いながら、ふと店舗の壁に掲示されていた金子さんの資格認定の証明書にあった資格の名前を思い出していた。林業技能作業士?
金子さんはもともと利根沼田の豊かな森林資源を背景に林業を営んでいた。現在は舞茸の生産を行うために林業で培った「山の技」を生かしているが、その山の技を持っていることの証明がこの認定書ということらしい。
「きのこをやろうと思って、きのこの勉強をして平成6年の4月に舞茸園を起業しました。このあたりでは舞茸を作っている人たちがあまりいなかったので。いいきのこを作りたかったので舞茸に絞ってやってきました。実際にやってみて、かえって山をちゃんとやろうという気持ちになったんです」
美味しい舞茸を作るための美味しい菌床には美味しいおがくずがいるはず。おがくずに使用する広葉樹を切り出すのも、山を知らなければ簡単に切り出すことができないことは素人にも想像がつく。
菌床工場の隣の広葉樹置き場に案内された。切り出した木を粉砕して作った美味しそうなおがくずが山になり、数日前に降った雪の水分を含んでふっくらとしている。倉庫の中に見たことのない特殊な機械がいくつも並んでいた。金子さんが一つ一つ説明してくれるが、名前も役割もほぼ頭に入ってこない。そんな中で一つだけはっきりとイメージが浮かんだものがあった。空中にワイヤーロープを張って材木の切り出し地点と集積地点を結ぶ。ロープ上に電動の巨大なクリップのようなものが取り付けられている。切り出した木をそのクリップに挟んで集積所に運ぶ。山のことがわかっていて、どれが広葉樹なのかもわかって切るべき木を判断できて、切った木をこういう機械で運ぶことができる、そんな金子さんのような人だからこそ、美味しい舞茸を作ることができるということ。疑問が浮かんだ。広葉樹を切り出すのは森林資源をしっかりと育てるため? 美味しい舞茸を作るため? どちらにウェイトがあるのか。いや、そういうことではない。たぶんどちらもだ。
50年、100年後の山を思う。水を吸い上げる力が弱くなった老木を切って、吸水量が多い元気な木を残すことで循環した資源管理をしている。後世に資源を残すことを思い描きながら、いま美味しい舞茸を作る。足元の舞茸、夢の向こうの山。金子さんは最後にこう語った。
「山から離れたくない。山と生きていきたい」
そんな生産者が沼田にはいるのです。
取材/堺谷徹宏
撮影/高津修、沼田市
デザイン/中川あや
構成/山崎友香
おいがみ舞茸園
https://www.facebook.com/oigamimaitakeen/?ref=page_internal
認証品:まいたけ、白まいたけ、乾燥まいたけ
住所:沼田市利根町高戸谷753-2
電話番号:0278-56-4000
代表者:金子 美代次